はじめに:距離を置いてきた父の存在
このエピソードは弊社の海洋散骨をご利用いただいたお客様と、打ち合わせを重ねるなかで、語っていただいた故人様とのエピソード、
そして、式当日のお気持ちなどを交えて構成させていただきました。
私は、ずっと父が苦手でした。
仕事一筋で家庭を顧みなかった父。
厳しくて、無口で、そして…たまに優しさが不器用にこぼれる、そんな人でした。
そんな父が他界したとき、正直、何も感じなかったと言えば嘘になりますが──
心の中には、ぽっかりと穴があいたような、言葉にならない空白だけが残りました。
「最後くらいは、父らしい送り方をしてあげよう」
そう思った私は、父が生前好んで眺めていた八代海への海洋散骨を選びました。
八代港からクルーザーで出航
出航は、朝の八代港。
風は穏やかで、空は高く晴れていました。
クルーザーは静かに三ツ島、小築島、大築島の間を進み、天草の島影が遠くに見えます。
普段はなかなか乗る機会のない船の上。
不思議と、心の中にあった“わだかまり”が少しずつ解けていくような気がしました。
汽笛が鳴る|静寂の中の黙祷
目的地に着くと、汽笛が三度鳴らされ、黙祷の時間が始まります。
船のエンジン音も止まり、波音だけが聞こえるその瞬間。
目を閉じると、不思議と父の声が聞こえたような気がしました。
「おまえも、もう立派になったな」
そんな声が、海から届いたような、そんな気がしたのです。
献水、献酒、そして献花──想い出がよみがえる
儀式は、献水から始まりました。
そして、父が好きだった焼酎を献酒として海にそっと流し、最後に白い花を手向けます。
ふと、昔のことを思い出しました。
幼い頃、手をつないで初めて海に行った日。
高校の卒業式の朝、照れくさそうにポケットに入れてくれた封筒。
私は、あの頃の記憶がよみがえり、自然と涙がこぼれました。
「父さん、ありがとう」──ようやく言えたその言葉
参加者がそれぞれ想い出を語る時間。
私は、迷いながらも一歩前に出て、震える声で言いました。
「父さん、私はずっとあなたのことが苦手でした。けど……ありがとう。
あのときの焼酎、うまかったよ」
船の上には沈黙が流れましたが、どこか温かな空気に包まれた気がしました。
船はゆっくりと、父を中心に三度旋回した
セレモニーの最後、クルーザーは父を還した海を中心に、ゆっくりと三度旋回します。
八代海の静けさと、空の青さと、吹き抜ける風が、まるで父の背中を感じさせるようでした。
不器用だった父と、ちゃんと向き合えた気がしました。
今なら、ちゃんと笑って「いってらっしゃい」と言えます。
終わりに:確執の先にあった、父との“和解”
人と人の関係は、決して一直線ではありません。
それでも、たとえ別れの場面であっても、想いを伝えられる瞬間がある。
海洋散骨は、ただの儀式ではありません。
自分の心と向き合い、大切な人との関係を結びなおす“最後の会話の場”でもあるのです。


