はじめに:「ただの猫」なんかじゃなかった
「家に帰ったら、いつも玄関で待っていてくれたんです。
しっぽをゆっくり振りながら、静かに私を見上げるあの目が、今も忘れられません」
そう語ってくださったのは、先日、愛猫の海洋散骨を行ったご夫婦。
彼らにとって、その猫はただのペットではなく、
人生の一部であり、かけがえのない“家族”そのものでした。
なぜ“海”に還すのか|自然の中で眠らせたいという想い
近年、ペット火葬や樹木葬など様々な見送り方がある中、
「海に還してあげたい」という声も少しずつ増えてきています。
- 海が好きだった
- 抱っこされながら、よく窓から海を眺めていた
- 自然に包まれて、自由なままで眠らせてあげたい
愛する存在を、自然に還すという発想は、ペットとの絆の深さを物語っています。
八代港から出航|愛猫との“最後の旅”
出航は、熊本・八代港。
クルーザーに揺られながら、三ツ島、小築島、大築島を通り抜け、穏やかな八代海を進みます。
船上では、ご夫婦がそっと猫の遺影を抱いておられました。
「いつものように、外を眺めている気がするね」
そうつぶやいた奥様の目には、すでに涙がにじんでいました。
セレモニーの始まり|汽笛と静かな祈り
目的地に着くと、船はエンジンを止め、汽笛を三度鳴らします。
その音に、風と波が呼応するかのように静まり返り、
ご夫婦はゆっくりと目を閉じ、深く深く祈りを捧げました。
続いて、献水と献酒。
猫ちゃんがよく飲んでいたお気に入りの水をそっと海に注ぎ、
そして、白い花と共に静かにお別れの言葉を届けます。
「ありがとう。先にゆっくり眠っててね」
その声は、涙でかすれていましたが、確かに海へ届いていたように思えました。
クルーザーは三度、猫の眠る海を回って帰路へ
セレモニーの締めくくりには、猫ちゃんが還った場所を中心に、クルーザーが三度旋回します。
まるで、見送る私たちと、旅立つあの子が、最後に手を振り合っているかのような時間。
八代海の光と風、そして家族の涙が、やさしく混ざり合っていました。
ペットもまた、大切な命|だからこそ「送る」ことに意味がある
「人間と違うから」「小さな命だから」
そんな考え方は、もう古いのかもしれません。
家族として暮らした年月の分だけ、想い出があり、
そして、見送る意味があります。
海洋散骨という形で、“ありがとう”と“さようなら”を届けることは、
残された私たちの心をそっと癒してくれる儀式でもあるのです。

